いつも行くお気に入りのお蕎麦屋さんでは、かなりの確率で会うおじ様がいます。このおじ様は、かならず「ざるそば」と「もりそば」をオーダーするのです。
海苔がかかってるかかかってないかの違いしかないのに、どうして2つとも頼むんだろう?
「ざるそば大盛」ではダメなのかしら?といつも横目で気になっていました。
ある日、旦那さんと一緒にそのお店に行った時にも、そのおじ様に遭遇。「ねー、あのおじ様、どうして「ざるそば大盛」じゃないんだろう?」って聞いたら、「あ、なんか違いがあるはずだよ、海苔以外にも。だって、値段も違うでしょ?」と。
確かに、どのお店でも「ざるそば」の方がお値段若干高めなんですよね。海苔だけの違いで、100円とか値段違うのかな?とは思ってました。
「ざるそば」と「もりそば」の違いってなんでしょう?
ついでに別な日にいったお蕎麦屋さんでは、「月見そば」を食べたのですが、ちょっと面白い秘密があったので、ご紹介します。
まず、「ざるそば」「もりそば」よりも先に「ぶっかけそば」!
日本にそばの実が伝来してきたのは、奈良時代以前なのは確実ですが、はっきりわかっていないのだそうです。
昔は「蕎麦がき」(団子のようなもの)で食べていたのですが、江戸時代中期の頃には、今のそばのスタイルに近い細長く切って茹で、漬け汁に漬けて食べる食べ方が主流になりました。これは、「そば切り」と呼ばれ、麺ほどは長くないスタイルです。
そしてそれが、「最初から汁をかけた方がお客さんに出しやすいよね!?」ということで、汁が最初からかけられるようになり、そばののど越しがいいように細長い麺になり、「ぶっかけそば」が生まれたのです。
「ぶっかけそば」のほうが早く誕生したんですね。
「もりそば」が次に登場していた!
「もりそば」は、「ぶっかけそば」と区別するために生まれた言葉なのです。
「ぶっかけそば」は、最初に汁がかかっていましたが、汁につけて食べるスタイルが導入され始めました。そばだけを盛るのに見栄えがいいよう、高く盛り付けたので「もり」という言葉を使ったのです。
そして、盛り付ける器が一般的には「せいろ」なので、「せいろそば」と言われることも。
中には、そばを茹でずに、その「せいろ」ごと蒸したそばを「せいろそば」と呼んで、「もりそば」と区別することもあるのだとか。
だから、基本的には「もりそば」は、「ぶっかけそば」の盛り方と食べるスタイルを変えただけで、味に変化はないのです。
「ざるそば」は実際のところ…なに?
お蕎麦屋さんでは、「もりそば」よりも若干お高い「ざるそば」です。そこには理由があるはず…。本当に、海苔だけなのでしょうか?
「ざるそば」が登場したのは、江戸中期、東京、深川にあった「伊勢屋」というおみせで、そばを竹ざるに盛って出されたのが始まりと言われています。当時、深川は江戸のリゾートと呼ばれていたので、そこではやった「ざるそば」は、瞬く間に人気になったのです。
そして、注目すべきは、「もりそば」のつけ汁とは違う、「ざるそば」専用の「ざる汁」の存在です。そしてそして、なんと「ざるそば」に海苔がかけられるようになったのは、明治に入ってからなのです。やっぱり、海苔だけじゃない!
「ざるそば」の「ざる汁」とは?
「ざる汁」は、「もりそば」のつけ汁に同量のみりんを加えたもので、かなりコクがあるです。当時は、みりんがまだ贅沢品だったので、汁と同量のみりんはコクだけでなく高級感も演出していたのではないでしょうか?
このように作られた「ざる汁」は、「御前返し」とも呼ばれています。
「もりそば」と「ざるそば」の違いをまとめると…
そばの歴史から見て、その正式な違いというのは
- 器が「せいろ」か「竹ざる」か
- つけ汁に「みりん」が入っているかどうか
- 「海苔」がのっているかどうか
当時は高級な位置づけだった「ざるそば」なだけに、一説では、「もりそば」のつけ汁には二番だし、「ざるそば」には一番だしを使っていたという説もあります。
そういえば、いつものお蕎麦屋さんの大将は、「こっちがもりの汁で、こっちがざるの汁ね」って両方オーダーのおじさんに言ってました。海苔だけでなく、つけ汁まで差があるならお値段の差があるのは納得です。
でも、最近のお蕎麦屋さんでは、ざる専用の「ざる汁」を用意していないお店も少なくないとか。そこは、自分の舌で選ばないといけないですね。違いの分かる人にならないと!
「月見そば」の具に意味があるの!?
さて、そば全般が好きな私ですが、たまに頼まずにいられないのが「月見そば」です。
単に、かけそばに卵をのせたものが「月見そば」と思っていましたが、あるお店で頼んだ時に海苔が入っていました。
ちょっと驚いた顔をしたらしく、すかさずそこのおばちゃんが、「正式には、そばの上に海苔、その上に卵をのせて、上からつゆを注ぐのが月見なんですよ」と教えてくれました。
卵=月なのは名前からわかりますが、上から汁を注いで白くなった白身が雲、海苔が夜空の意味があるのです。
なんて風流で優雅なそば!ねぎを松、椎茸を林とすることもあるのだとか。
全のせの月見そばが食べてみたくなります。
まとめ
「ざるそば」「もりそば」には、こんなに明確な違いがあったんです。
本格的な「ざるそば」を出すお蕎麦屋さんを、自宅近くや職場近くで探してみたくなります。
- 「ざるそば」「もりそば」は、「ぶっかけそば」から発祥。
- 「もりそば」は、せいろに高く盛ったそばで、「ぶっかけそば」と味の違いはない。
- 「ざるそば」は、ざるそば専用のざる汁を使い、竹ざるに盛ったそば。
- 「ざるそば」の海苔は、明治に入ってから盛られるようになった。
- 「ざるそば」「もりそば」の違いは、器・つゆ・海苔。
- 「月見そば」は海苔入りが正式。
- 黄身は月、白身は雲、海苔は夜空、ねぎは松、椎茸は林の意味がある。
今度お蕎麦屋さんに行った時には、「ざるそば」と「もりそば」を一緒に頼んでみたくなりますね。