日本語は、見た目がすごく似てる言葉なのに、一文字違いで意味が全然違うものが多くあります。先日、ある方のスピーチで、そんな間違いが…。
でも、周りの人はあまり反応しないのです。明らかに意味が違うのに…。
「役不足」と「力不足」、仕事での会話でも使うことがある言葉ではないでしょうか?
さっきみたいに反応しない人も多いくらい、実は誤用されがちな言葉です。
でも、場合によっては、とても偉そうに聞こえてしまうことさえある、危険なふたつの言葉です。
ここで「役不足」と「力不足」のおさらいをしてみましょう。
「役不足」と「力不足」の正確な意味
まずは、私の愛用の辞書、三省堂 大辞林でそれぞれの言葉の意味を確認してみましょう。
「役不足」(やくぶそく)の意味
俳優などが与えられた役に満足しないこと。
能力に対して,役目が軽すぎること。
「力不足」(ちからぶそく)の意味
努力や能力などが不足していること。
「役不足」という言葉が間違って使われることもある。
なんと、「力不足」の意味には誤用の件も書かれているくらい、よくある間違いなんですね。
「役不足」と「力不足」の意味の違いを分かりやすくすると…
式で表すとわかりやすいかも知れません。
役不足 = 能力 > 難しさ
力不足 = 努力や能力 < 難しさ
たとえば、デザイン関係の仕事をしているAさんが、取引先から新しい案件を提案されたとしましょう
- 私は役不足なので、これはお受けできません。
- 私は力不足なので、これはお受けできません。
1.の場合には、「私の能力が有り余っていて、もしくは案件が簡単すぎて、この仕事は私には向いていません。」と言っているのと同じ意味になるがわかりますか?
対して、2.の場合には、「私の能力が、その案件に対して低すぎるので、お受けできません。」という意味になるのです。
この例からもわかるように、言う場面や相手によって、ささいな「役不足」と「力不足」の誤用でも、かなり失礼にもなりかねないのです。
ありがちな「役不足」を「力不足」の意味で誤用
誤用:「私なんかでは役不足です。」
与えられた役割が自分には荷が重すぎる時にいう一言ですが、これは誤用です
正解:「私なんかでは力不足です。」
私が聞いたスピーチでは、こんな間違いがありました。
誤用:「役不足ではございますが、この大役を務めさせていただきます。」
これを普段の言葉遣いに変換すると、
「こんな簡単な仕事を俺様に割り当てるとはねー。やってあげるけどさ。」
というところでしょうか。この場合は、もし「役不足」の意味を理解して使っているならば、「大役」という言葉を使ってるのも、また余計に嫌味に聞こえるかも知れません。そう、嫌味を言う時に、わざわざ誤用するのもアリなのかも。
正解:「力不足ではございますが、この大役を務めさせていただきます。」
「役不足」と混同される「役者不足」
「役者不足」は、一般的な辞書にはない表現で造語です。しかし、実用日本語表現辞典には掲載があります。
そこからの「役者不足」の意味は、
「力不足」や「役不足」などと取り違えられたり誤用されたりして使われる表現。「力不足」は力量や能力が不足していること、「役不足」は能力に対して役目や訳が簡単過ぎること。「役者不足」という誤用は、通常「役目に対して能力が足りない」という意味で使われることが多い。
とあります。
本当は、そのまま普通に「役者が足りない」との意味しかない言葉です。
この言葉が使われている時には、前後の文脈、場面や周りにいる人などを考えて、その意味が「力不足」と同じなのか、「役不足」の方なのかを、聞き手が判断しなければならないのです。
さらに、もし「役者不足」の言葉の使い手が「力不足」と「役不足」を混同して使っていたとしたら…もう結局、何がいいたいのかわからなくなることもありますね、きっと。
「役者不足」は、日本語として意味がしっかり定義されていないので、使うのは避けたほうがいい言葉です。
まとめ
あなたは「力不足」と「役不足」を勘違いしていませんでしたか?
私が聞いた誤用のスピーチは、意外とご年配の方のスピーチでした。それくらい「力不足」と「役不足」の誤用は多いんですね。
まとめると…
- わかりやすく式にすると、『役不足』 = 能力 > 難しさ、『力不足』 = 努力や能力 < 難しさ
- 一般的には、「役不足」を「力不足」の意味で誤用することが多いのです。
- すると、失礼な意味になってしまうので注意しなければいけません。
- 「役不足」と「力不足」に混同される「役者不足」は造語で意味があいまいなので、使わないのが無難です。