たまに、日本語が流暢なメールをくれるアメリカ人のマイケル君は、学生の時に日本語の家庭教師をしてあげていた友人であり、英語を教えてくれた私の家庭教師でした。
でも、毎回マイケル君からメールがくると、構えてしまうのです。だって、日本語の難しい質問なことが多いのです。もうほぼ完ぺきに読み書きもできるんだから、細かいことを気にすることはないのに…。
案の定、今回も難しいお題が来ました。
「気が置けない」?「気の置けない」?どっちが正しいの?これって、いい意味と悪い意味があるみたいだけど、2つも意味あるの?
これは、んー…難しいですね。。
というわけで今回は「気が置けない」「気の置けない」の正しい使い方や意味を紹介します。
「気が置けない」「気の置けない」、正しいのは…
結論からおおざっぱに言うと、『どちらも間違いではない』と言えます。
一般的には、「気が置けない」で使うのではないでしょうか?でも、「気の置けない」と言われても通じるし、そう違和感はないと思います。
本来は、区別があります。「気の置けない」の後には名詞がつきます。「気の置けない仲間」「気の置けない人」など。
今では、「背の高い男性」とも「背が高い男性」とも表現します。
「気の置けない仲間」と「気が置けない仲間」もそれと同じように、一般的にどちらも使われるので、正しいとされています。言葉は人が使いやすいように使うのが、一般化されるものです。
それに対し、「あの人は昔からの親友で、気が置けない。」などのように動詞的に使う場合には、(が)が正解です。(の)にしてしまうと、違和感があります。
だから、文章に違和感がないのであれば、どちらを使ってもOKということになります。
ここでは、一般的な「気が置けない」の表記で説明します。
「気が置けない」の正しい意味とは?
マイケル君が言うように、「気が置けない」は、人によって意味が違う使い方をされることがあります。
- 他人行儀な距離感がなく、気を遣ったり気兼ねしたりする必要がないほどに親密であるさま。
- 油断できないさま。警戒心を持っているさま。
※まれに、打ち解けにくいさまの意味で使う人もいます。
これ、意味は①が正解です。②は完全な誤解からの間違った意味なのです。
「気が置けない」の意味①が正しい理由は?
「気が置けない」の「置けない」は、「置ける」の否定形なのはわかりますよね。
この「置ける」は、自発(自然と言ったほうがわかりやすいかも…)動詞=自然できる動作を表現しています。
「気が置けない」の「気」は、相手への配慮や遠慮のことを指しています。
仲間との間に、自然と遠慮や配慮を置くことさえ忘れてしまうほど仲がいいさま=自然にはそういう「気」を「置けない」ことから、「気が置けない」が成り立っています。
実は、今では使われませんが、かつては「気を置く」を「気を使う」という意味で使っていたのです。
意味②が間違っている理由は?
「気を置く」が「気を使う」の意味があることを知らない世代は、意味②での間違いをおかしやすいと言えます。
また、今の世代は「置けない」を、例えば「書く」の可能動詞「書ける」などと同じように、「置ける」の可能動詞の否定形と理解する傾向にあります。
すると、略をしないで表現すると「気が置くことができない」となり、意味②の間違った使い方をしてしまいます。
意味②の正しい表現は、「気を許す」の否定形で「気を許せない」ですよね。
まとめ
「気が置けない」の意味は知っていましたが、かつて「気が置ける」と使われていたとは意外です。
日本語って、本当に難しいですね。
まとめると…
- 「気が置けない」「気の置けない」は文章に違和感がなければ、どちらでも正解。
- 意味は、“気を遣ったり気兼ねしたりする必要がないほどに親密であるさま”のひとつだけ。
- 「気」は遠慮や配慮の意味、「置けない」は自発動詞の否定の用法と理解する。
- 「気が置ける」は「気を使う」の意味で昔は使われていた。
- “油断できない、警戒心をもっているさま。打ち解けられないさま。”の意味は間違い。
- 間違いの原因は、「置けない」を可能動詞の否定形と理解するから。
- 間違った意味に相当する言葉は、「気を許せない」。
文化庁の以前の調査では、ご年配の方は「気が置けない」の意味は間違わないそうです。だから、ビジネスなどで目上の人と話をする時に、この間違いをしていたら、ちょっと恥ずかしいかも知れません。
「気が置けない」の意味、ちゃんと覚えておきましょう。